「なにもしない」を職業にした男の豊かな人生 先見の明 それとも怠け者か
今の彼の生業は、“なんもしない”こと。本当に何もせずに、ただそこにいることを仕事にしているというのである。
肉体に鞭打ち、汗水たらして働くより、ただじっとしてさえいれば仕事になる。先見の明があったのか、単なる怠け者なのか、一概にに判断が尽きかねる。
家事代行、大工仕事、車の運転等々のいわゆる”なんでも屋”の一種である。
今、コロナ禍で世界中が大変なことになている。
日本でもその例に漏れず、感染者数は増えつづけ、入院もできずに自宅で命を絶たれる人が後をたたないのが現状だ。
巷では企業が相次いで倒産、もしくは赤字。昨年の完全失業者は191万人だとか。休業者に至っては597万人の多さである。飲食店の休業補償は雀の涙。雇い止めのシングルマザー。毎日の食事にもことかく窮状に差し伸べる手のなんと少ないことか。
”国民の安全と命を守る“毎度、毎度、壊れたテープレコードのよに同じ念仏を唱える偉いさん。
1年前のこの日、“レンタルなんもしない人”は、ひとつのツイートから誕生する。
ツイッターのフォロワーは現在17万人超え。
当初はポツポツとこなしていた依頼も、今では断らざるをえないほど殺到しているとか。
「毎日2、3件、多いときは4件ぐらいの依頼をこなしている。この1年で1000件以上は『なんもしなかった』ですね」と話す。
彼の”仕事の内容”「結婚式を眺めにきてほしいという依頼。事情により友達呼ぶの控えてたけど少しは誰かに見てもらいたい欲が出てきたとのこと」「離婚届の提出に同行してほしいという依頼。一人だと寂しさがあるのと、少し変な記憶にしたいという思いもあるとのこと。「自分に関わる裁判の傍聴席に座って欲しい」との依頼。民事裁判で、依頼者は被告側。初裁判の心細さというより、終わって一息つく時の話し相手が欲しいとの思いで依頼に至ったらしい」「『引っ越しを見送ってほしい』との依頼。友達だとしんみりし過ぎてしまうため頼んだとのこと。元の部屋~東京駅だけの付き合いだったけど、いろいろ楽しい会話もあり、演技のない名残惜しさで見送れた」「気の進まない婚活の作業を見守ってほしいとの依頼。唸り声を10分に一回くらいあげながら登録作業に勤しんでいた」著書『レンタルなんもしない人のなんもしなかった話』(晶文社)より一部抜粋おかしな話だが、レンタルさんの1日は「なんもしない予定」で埋まっているのだ。
「朝8時半ごろ家を出て、依頼者の指定する場所に行きます。日によって変動しますが、3つほどなんもしない依頼をこなして帰宅は夜10時前後。移動がやや大変だけど、基本的になんもしないし、仕事終わりに飲むビールのおいしさが初めてわかりました」
人間誰しも泥舟に乗って、大海原を流されているようなものである。いつなんどき、泥舟が沈没するかわからない不安を抱えて一人で生きているようなものでる。
ほんの些細なことでもいい、誰かが側にいて欲しい、見守っていて欲しい、話し相手になって欲しい。この”レンタルさん”は人間の弱い側面を感じとったのだと思う。率直なとこ、この人偉い。まるで哲学者だとおもう。
なんもしない……けれど、充実している。そして、なんもしないけれど、人々から必要とされている。
最初のうちは、なんとなく怠け者だなんて、少し、愚弄していたが・・・・。
そうじゃない、人間の心の深奥を追求した哲学者だろうと思う。